例えばイタリア語ならばドルチェ、英語ならばスイーツと同様に、甘いデザートを意味するポルトガル語はドッセ。直訳するとまさしく甘いもの、となります。洋の東西を問わず、世の女性は甘いものが大好き。もちろん、それはブラジルも一緒です。わたしたち日本人がイメージする洋菓子は、どうしてもフランスやイギリス系のものが多いですが、ブラジルはポルトガルやスペインのお菓子の影響が大きく、若干イメージが異なります。
ブラジルのお菓子は、ポルトガルやスペインの影響がとても顕著です。なので卵と砂糖、牛乳によるカスタード・クリームを発展させたお菓子が数多くあります。ですが、このうちの牛乳がコンデンス・ミルクやココナッツ・ミルクに差し替えられるのが、ブラジル式。また、ボーロ(ケーキ)やトルタ(タルト)以外では案外、小麦粉を使った焼き菓子が少なく、前述のブラジル式カスタードをベースに丸めたり、固めたりするものが多くあります。つまり、生クリームの使用率がかなり低い、ということです。
粉を使う焼き菓子は、キャッサバやとうもろこしのでん粉を使う例がとても多く、これが結果として小麦粉を使った焼き菓子を少なく感じさせているのでしょう。もう1つ、ブラジル菓子に欠かせないのが、ココナッツ。ブラジル本国では生のココナッツ果肉を細かくおろして使いますが、日本では入手が難しいのでココナッツファインで代用します。
全般的に甘味はとことん強く、砂糖が名産だったポルトガルの影響、かつて砂糖が贅沢の象徴だったから、お料理の塩気が強いから、などとよく推測されています。ですが近年はダイエットブームの関係から、ブラジルのお菓子の甘さも控えめになりつつある傾向のようです。
たっぷりの牛乳に、たっぷりの砂糖を加えて焦がさないように煮詰め、固めたのがドッセ・ド・レイチ。香りづけにシナモンやバニラもよく少量加えられます。固めたキャンディ状のものを食べるのが一般的ですが、他にペーストの状態をパンに塗ったりもします。
以前、エッグ・タルトが日本でもブームになりましたが、キンジンの原型は恐らく、ポルトガルのエッグ・タルトではないか、と考えられます。卵黄、砂糖をよく混ぜ合わせ、常温で緩めたバターとココナッツの果肉も混ぜ合わせた生地を、型に入れて蒸し焼きに。鶏卵素麺を始め、この手の卵と砂糖のお菓子は、スペインやポルトガル文化が流入した東南アジア各国でもよく見かけます。
源流はキンジンと同じものでしょうか。ブラジルでの位置づけはキンジンよりもリーブナブルなお菓子、といった印象でしょうか。卵黄とコンデンス・ミルク、ココナッツの果肉、粉チーズを混ぜ合わせた生地をカップケーキのようにオーブンで焼きます。
日本人には、キンジンよりも馴染み易いかも知れません。
外見だけならば、ガナッシュ(溶かしチョコレートと生クリームを混ぜたもの。チョコレート菓子のベース)を丸めてチョコレート・スプレーを塗したようですが、それではフランスのお菓子と変わりません。ブラジルで、溶かしチョコレートと混ぜるもの。それはコンデンス・ミルクで、ブリガデイロも同様です。
とてもとても甘いので、小さめに丸めることと、周囲を飾るチョコレート・スプレーは色素の入っていないものを選ぶと、よりブラジル流になります。
色々なバリエーションがありますが、基本的にはコンデンス・ミルクにココナッツの果肉を加えて煮詰めて丸め、グラニュー糖を塗したもの。仕上げに、クローブをちょうど果物のヘタのように刺して出来上がり。パイナップル・ジュースも一緒に煮詰めると、よりトロピカルな仕上がりに。
パンプキン・パイのフィリングはカボチャの果肉を砂糖と水で煮詰めて作ったジャム状のペーストですが、ブラジルではこれにココナッツの果肉を加えます。そしてパイやタルトのフィリングにするのもさることながら、一番多いのはジャムよりももっともっと煮詰めること。きんとんよりも固くなったら、ワックスペーパーに薄く拡げて冷蔵庫へ。最後にハート型で抜くと、ブラジル式パンプキン・スイーツの完成です。同様にさつま芋で作ればドッセ・ド・バタタ・ドッセ。こちらはダイヤ型です。
口に入れると崩れてしまうデリケートなクッキー。それがビスコイト・マイゼーナです。マイゼーナとはコーン・スターチのこと。白っぽくなるまで泡立てたバターに砂糖と卵をすり混ぜ、さらにコーン・スターチも加えます。そのまま成形してオーブンで焼きますが、とても崩れ易いため、つなぎとして小麦粉を少量加えることもままあります。
ビスコイト・デ・マイゼーナはコーン・スターチで作りますが、同様にポービィリョ・ドッセで作ったクッキーがセキーリョです。ビスコイト・マイゼーナとの一番の違いは、セキーリョの方が表面がしっかりしていることかも知れません。ポービィリョとコーン・スターチのでん粉としての性質の違いからでしょう。
生のココナッツの果肉。細長く削ったものココナッツ・ロングで、顆粒状にしたものがココナッツ・ファインですが、それらよりずっと大きく、ダイス状やそれ以上の大きさに切り分けたココナッツの果肉に、砂糖衣を塗したものがコキーニョです。日本でも大豆やえんどう豆の砂糖衣がけがありますが、ブラジルではココナッツです。
ピーナッツ・パウダーに砂糖と少しの塩をよく混ぜて、ピーナッツの油分と圧力だけで固めたお菓子。なので、すこし力を入れて持つと途端にホロホロ崩れてしまいます。作る時はピーナッツの油分が充分に全体にいき渡るように、とにかくよく混ぜること。あとはバットに入れて、上から別のバットで圧をかけるだけです。
メレンゲを絞って焼いたススピーロは、たかがススピーロ、されどススピーロ、というお菓子でしょう。お口に入れるとシュワシュワ溶けて舌に何も残らないのが、ブラジルの本格的なススピーロ。でも、これが中々ブラジル家庭のおかあさんたちにも難しく、作るだけならば簡単なのに、とため息をつく人はとても多いです。ポイントはメレンゲをどれだけきめ細かく泡立てられるか、です。チャレンジしてみてください。
日本語に直訳すると「お姑さんの眼」という意味。砂糖を煮溶かしたシロップにココナッツと卵を加えて固めたものを丸めて、切り開いたプルーンの真ん中に据えて、包みます。お姑さんに見張られているような気分になれるでしょうか?
砂糖を熱してカラメルにした中にココナッツ・ロングを加えてよく絡めたら、流し缶のような型に入れて冷やします。食べ易い大きさに切り分けたらできあがり、というシンプルなお菓子です。日本人には、何処となくカルメ焼きを彷彿とさせます。
「世界三大作物をすべて挙げてください」
もし、そう訊かれる機会があったらこう答えてください。「イネとムギ、そしてトウモロコシ」と。特に三番目のトウモロコシは、世界各地の殆どの大陸と地域で食用及び家畜用飼料として。最近ではさらにエネルギー源として、わたしたち人類にたくさんのものを授けてくれる、ミラクル植物です。食用になり始めた時期も紀元前5000年ごろからとかなり古く、でも日本で本格的に栽培されるようになったのは、明治期となります。だからでしょうか、わたしたち日本人は、トウモロコシの調理バリエーションが乏しいな、と感じてしまうのですが、その一方で原産地界隈でもある中南米各国は、本当にトウモロコシを美味しく、様々な形で食べる知恵が豊富です。特に日本人ではあまり発想もしそうにないのが、甘いデザートへの活用。粉末化したフバでパンやケーキを作るのはもちろんですが、中には収穫したままの皮とヒゲをついたトウモロコシで作る甘い、甘いデザートもあります。その名はクラウ、といいます。
収穫したままの、まだヒゲと皮を纏っている生のトウモロコシ。それを摩り下ろすところから作り始めるこのデザート。先ずはブラジル本国の、それも本当に素朴でオーセンティックな作り方を初めにご紹介しましょう。
「生のトウモロコシを3本、水を240cc、砂糖を好きなだけ」
作り方はトウモロコシを摩り下ろして取れる絞り汁に水と砂糖を加え、そして煮詰めて…、と。ですが、これだけではやはり青臭さが残ってしまうようで、様々な本国レシピを見ていくと、水が牛乳に置き換えられ、そこからさらにコンデンス・ミルクも加えられ、ついでにコクを出す為なのかバターが追加されるものまで、まさに百花繚乱の様相です。地方別に見てもより素朴なレシピは南部が中心になり、サンパウロやリオ・デ・ジャネイロ周辺のものほど原型を留め ていない傾向があるようです。余談になりますが、トウモロコシは熱帯で栽培できないからか、ブラジル北部にはレシピそのものがあまり見られませんでした。
さて、そんなクラウをどうやって日本のみなさまにお伝えするべきかな、としばし考えました。あくまでも文化という側面を重視するならばオーセンティックなものを優先するべきですし、作り食べる楽しみという側面を重視するならば原型から遠いものほど優先されるべきですし、はてさて。…結論は、クラウのトウモロコシらしさが十分に感じられつつも、日本人にも違和感なく食べられるように、という折衷案となりました。それが以下のレシピです。実際に作るのはとても簡単ですし、でもあるようでなかった新感覚スイーツ。喩えるならば甘いコーンポタージュスープとか、甘いコーンのプリュレ、といった印象です。
ただ1点、コーンは絶対に生のものを使いましょう。缶詰のホールコーンや封を切ればすぐ食べられるスイートコーンのレトルト、それから缶詰のクリーム・コーンもすべてNG。理由はすでに加熱されてしまっているからで、生から作った時にできるあのブリュレのような微妙な柔らかさが実現しませんので。…そう、つまりクラウは毎年、夏季限定のスイーツなのです。
*作り方*
ブラジルのパダリア(パン屋さん)なら、売っていない所は滅多にないんじゃないかしら?そう思えてしまうほど、ポピュラーな菓子パン・ソニョ。パン生地をオーブンベイクして仕上るのではなく、油で揚げることによって表面はカリッ、中身がフワフワの食感になる揚げパンです。
日本人にお馴染みの揚げパン、と言えば学校給食で人気だったコッペパン型になりますが、ソニョはまさしく"まんまる"。そして真ん中に切り込みをいれて、クリームを挟みます。仕上げに、全体へ粉砂糖とシナモンをふりかければ、ブラジル式揚げパン・ソニョの出来上がり。
ソニョ、とは夢という意味のポルトガル語。その名の通り、スウィートでフワフワのドリームをいかがですか?イースト発酵の手順さえクリアできれば、手軽な手作り菓子パンになりますよ。
材料(6個分)
◆生地◆
◆クリーム◆
◆トッピング◆
*作り方*
お米が主食の日本に比べ、パンを多く食べる欧米各国はまさしく粉食文化の国。例えばブラジル特産のキャッサバ芋も、お芋自体を粉にしたもの(粉末キャッサバ)とお芋から抽出したでん粉(タピオカでん粉)の二種類を作り、お料理に使いこなします。
そして、それはトウモロコシも同じ。トウモロコシから抽出したでん粉であるコーン・スターチと、トウモロコシ自体を粉末化したコーン・ミールとがあって、欧米諸国ではよく使われています。コーン・ミールは厳密に言うと、粉の粒の大きさでコーン・グリッツ(粗)とコーン・フラワー(細)に分かれ、さらにはトウモロコシの実の黄色い皮も一緒に粉末化したものと、そうではないものでも分類されます。都合、四種類のコーン・ミールがある、ということですね。
ただ、コーン・ミールをそこまで厳密に使い分けるのはイタリアなどの南欧各国で、ブラジルではトウモロコシの皮ごとを若干粗い粉末にした黄色いコーン・グリッツをよく使用。これがフバです。
フバで作られるのものの代表格はポレンタ、と呼ばれるイタリア由来のお料理とボーロ・デ・フバというケーキ。どちらもトウモロコシ特有の甘みと香りが漂い、トウモロコシの皮の繊維の食感もかすかにある、素朴な味わいです。
材料(8人前)
*作り方*
ブラジルのケーキは水分が多く、やや重たいのが特徴です。このボーロ・デ・フバもどっしりとした仕上がりがポイント。小麦粉は使わないコーンミールと粉チーズの風味が、どっしりしたケーキに、よく合ます。
今、ブラジル本国の都市部で、ちょっとしたブームになっている軽食があります。それは、タピオカ。…といっても、日本人がタピオカと聞くと、どうしてもあのタピオカパールを思い浮かべてしまいがちですが、そちらのブラジル名はサグー。ブラジルでタピオカと言ったらクレープやメキシコのトルテーヤのような外見をしている、薄い生地で具を挟んだお料理です。
そもそもタピオカ、とはキャッサバ芋の別名。そしてそのキャッサバ芋のでんぷんがタピオカでんぷん、となります。タピオカパールはこれを丸めたもので、ブラジルのタピオカはこのでんぷんで作った生地、となります。
タピオカでんぷん。これが自然界のものでありながら、とても不思議な存在です。水分を抱え込む力が、他のでんぷんに比べてとにかく強く、だからこそ、ポン・デ・ケイジョのあのもちもち食感も、タピオカパールのぷにぷに食感も叶います。
ブラジルのタピオカは、そんなタピオカでんぷんの特性を存分に活用したお料理。水分を含ませても半ばサラサラしている手触りの粉をそのまま加熱します。すると、粉の粒子と粒子がくっついて一枚の生地に。粉という"点"が、生地という"面"になる過程は、初めて知る人にとってはびっくりしてしまうものでしょう。ですが、これこそがタピオカでんぷんの秘めた力。ブラジル料理のタピオカは、まさしくわずか数ミリのミラクルです。
具としてポピュラーなのが、干した牛肉のほぐし身とチーズの組み合わせや、バナナのソテー、ココナッツ・ファインとチーズの組み合わせなどなど。ブラジルでは、生地を焼く寸前の粉と、具材をそれぞれ事前に作り、仕上げだけを路上で行い、販売している屋台が、よく見られます。
実際に作ると、思っている以上に生地が裂けやすく、ちょっと上級者向けのお料理です。でも、ぜひタピオカでんぷんのミラクルを体験していただけたら、と思います。
材料(4~6枚分)
◆生地◆
◆具A◆
◆具B◆
*作り方*
※薄く作ろうとすればするほど、作業がとてもデリケートになり、難易度が上がってしまいます。
※スライスしたバナナを生地に載せて、コンデンスミルクをかけたり、具は様々に工夫できます。
世界各地のお料理のネーミングには、時々「…ええっ!?」と驚いてしまうものがあります。例えば、イタリアはトスカーナ州の名物に"pollo alla diavola"というものがあります。これ、直訳すると悪魔風チキンとなるんですが、商品名ではなくて、あくまでも料理名に不吉なイメージを負わせてしまうのは、日本人にはあまりない感覚かもしれません。恐らくはラテン民族特有のジョークなのかな、と。
ですが、不吉なものだけではなくてちょっぴりキタナイ印象の料理名もそこそこあるんですね。それも、甘くて可愛らしいお菓子の名前に。代表的なものはフランスの"pet do nonne"。直訳すればズバリ尼さんのおなら、となるわけで、でも言われてみるとそう名づけたくなる気持ちも判らなくはない、可愛いお菓子です。
ババ・デ・モッサ。ブラジル南部でポピュラーな甘い、甘いお菓子です。ひと口に言うなら固まっていないキンジン、という感じでしょうか。作り方を見れば判りやすいのですが、要はカスタード・クリームのココナッツバージョンです。牛乳と卵黄と砂糖を温めて、つなぎに薄力粉を入れて固めるカスタードクリームに対し、ブラジルのババ・デ・モッサは卵黄と砂糖とココナッツミルクのみ。なので出来上がりはカスタードクリームのような淡い色ではなくてキンジンと同じオレンジに近い黄色。そう、まさしく卵黄の色なんですね。
さて、それではそろそろ発表しましょうか。"baba de moca"の意味です。英語でならば"young woman's dribble"とでも言えばいいのだと思います。はい、若い女性のヨダレです。
ですが、これもある意味で納得できてしまえるから名前ってすごいな、と思うんですね。金色に近くて甘い、甘いお菓子が若い女性のヨダレに喩えられるなんて、それはそれは女性が大好きな国民性なのではないかな、と。好きな女性とキスしている時のことが、イメージの前提にあったのでしょう。
そうそう、ここで1つご注意を!このお菓子、ブラジル南部ではとてもポピュラーですがサンパウロやリオではあまり知られていません。お菓子の存在を知らない人に「ババ・デ・モッサ」と大きな声で言うと、ちょっと驚かれてしまうかも知れませんね。
材料(4~7人前)
*作り方*
季節が春から夏に向かい始めると、途端に食べたくなったり、作りたくなるのがプルプル系のお菓子。プリンやゼリー、ババロアなどが一般的ですが、その次くらいに日本で知られているのは、ブラン・マンジェなのかも知れませんね。
ブラン・マンジェ。フランス語で「白い食べ物」という意味の冷菓です。本来は砂糖を加えた牛乳にスターチを煮溶かしながら温め続け、最後に冷やして固める、というものですが、牛乳と生クリームに砂糖を煮溶かし。アーモンドの風味を加えてゼラチンで固める、というレシピも多く見かけます。恐らくは、後者が簡略版なのでしょう。
ブラン・マンジェの元々の発祥地は古代のアラビアだ、なんて説もあります。そして、アーモンドの風味はその頃の名残とも考えられているようで、というのもこの古代アラビアのブラン・マンジェ。アーモンドの粉末と砂糖から作った、アーモンド豆腐のようなものだったらしいんですね。雰囲気としては、中華の杏仁豆腐にも通じるのかもしれません。
そんな古代から連綿と受け継がれてきたのかもしれないブラン・マンジェ。大西洋を渡って、ブラジルにも伝わりました。ブラジルでの名前はマンジャール・ブランコ。マンジャールというのはフランス語やイタリア語から転じた、言わばポルトガル語圏に於ける和製英語のようなもの。そして白い、という意味のブランコで修飾されて、こちらもやはり「白い食べ物」を意味しているのでしょう。
けれども、名前は同じでもお菓子そのものは少し変化したようです。…何せブラジルです。やはりココナッツ・ミルクはしっかり加わり、牛乳とココナッツミルクが融合した、とても繊細な舌触りのお菓子となりました。また、ブラジルの「白い食べ物」にはシロップで煮たプルーンを添えるのが独自の定番。
ブラジルでは、なかなかポピュラーな存在のマンジャール・ブランコ。街中の飲食店にいけば、大体メニューに載っています。…といって、日本でのショートケーキやプリン・アラモード、パフェに匹敵するくらい、どのお店にもある存在とまではいかず、確率的には「日本のモンブランくらいかなあ」とは弊社のブラジレーラの言葉です。
材料(23cmのエンゼル型で1台分)
◆本体◆
◆ソース◆
*作り方*
※プルプル系のお菓子をエンゼル型で作る場合、最後の型抜きがかなり難しいです。慣れない方は、無難にプリン型でたくさん作るのもおすすめです。
改めて言うまでもなくブラジルはキリスト教の国。なので、年間を通して最も盛り上がる季節イベントは、カーニバルとナタールになります。ナタール。はい、クリスマスのことです。ヨーロッパの伝統的なキリスト教国には、それぞれ独自の、あるいは共通したクリスマス料理がたくさんあります。ターキーやチキンの丸焼きはほぼ世界共通のクリスマス料理といえますし、逆にイタリアならばパネトーネ、ドイツならばシュトーレン、フランスやオーストリアならばクーゲル・ホッフ、などなど国ごとに微妙に違うパンがあったり、と、ひと口にクリスマス料理と言っても、とても奥深いものです。
移民国家ブラジルでは、一般的なお料理も南欧由来のものもあればロシア由来だったり、アジア由来だったり、アフリカのもの、アラブのもの、そして先住民だったインディオたちのものなどが、渾然一体、溶け合っています。当然、ナタールのお料理も、色々な国の影響が垣間見えるラインナップです。チキンの丸焼きと、イタリア渡来のパネトーネが最右翼となりますけれど、それ以外にも北米からやってきたテンダーロイン・ハムがメインを飾ったり、そうかと思うとその付け合せに、生粋のブラジルで生まれたお料理ファロッファが添えられたり。ポルトガル渡来のバカリャウも、ナタールの人気食材です。ですが、特に興味深いブラジルのナータル料理を挙げよ、と問われたならば、わたしはこう答えるかもしれません。ハバナーダ、と。
ハバナーダ。下記の材料と作り方をご覧いただければ、どんなお料理がすぐに察していただけるでしょう。そう、わたしたち日本人にも馴染み深いフレンチ・トーストそっくりです。
そもそもフレンチ・トーストはその名の通りフランス発祥。彼らの国ではpain perdu(パンペルジュ)と呼ばれていて、直訳すれば"失われたパン"となります。…はい、イタリアのアクアコッタ同様に、古くなって硬くなってしまったフランスパンを、牛乳に卵を溶いたアパレイユに浸して焼くことで美味しく食べよう、という発想から始まっているお料理なんですね。もちろん、今でこそ本場フランスでも様々なアレンジがされて、とてもゴージャスなパンペルジュもあります。が、それでも一般家庭では相変わらず残り物整理を兼ねた朝食メニューと言いますか、いずれにせよ素朴なものです。
なのに、そのパンペルジュも大西洋と赤道を越えたブラジルでは、クリスマス料理の一翼を担っているわけで、文化が伝わる過程で起こる変異・変質は、本当に不思議なものです。
ブラジルのパンペルジュ=ハバナーダ。恐らくはドイツ系移民がブラジルに伝えたのだろう、と推測されます。いや、ブラジルにはフランス系移民が殆どいませんし。また、ナタール以外の時も、ハバナーダはブラジルで食べられていますし、それは牛乳と卵に浸したパンを焼いただけ、というシンプルで質素なもの。けれども、ナタールではコンデンスミルクも加えた、まるでブラジルのプジンのような味わいにして、シナモン・シュガーを塗した、ゴージャス版のハバナーダがテーブルに乗るわけですね。
近年は日本国内でもカフェのメニューなどに卵とオレンジジュースのアパレイユに浸したものや、カフェオレと卵に浸したものなどが登場してします。トッピングも、メイプル・シロップや生クリーム、ベリー類や粉砂糖、とバリエーション豊かなフレンチ・トーストたち。ですが、そんなバリエーションの究極の形の1つに、ブラジルのハバナーダがあることも、ぜひ覚えておいてもらえたら、と思います。
材料(12~15個分)
*作り方*
女の子がキッチンデビューする日、各国のママたちが選ぶお料理は案外、定番があるものです。日本だとハンバーグを捏ねて小判型にするのが多いでしょうか。あるいは、手軽なインスタント・ミックスを使ったホットケーキやゼリー、そしてプリンなどが最右翼となるのかもしれません。一方、ここ日本から一番遠い国・ブラジルだと、何はともあれプジン(プリン)。…はい、要するにカスタード・プディングですけれど、これがブラジルのママイ(ママ)たちが最初に選ぶ、女の子のキッチンデ ビュー料理の定番です。但し、日本のようなプリンミックスを使って冷蔵庫で固めるものではなくて、意外にも本格的にオーブンで蒸し焼きにするまさしくカスタード・プディングの方。…それくらい各家庭にオーブンがある、という点にも驚かされますが、キッチンデビューのハードルの高さに、気忙しい日本と、きちんとお料理するスローフードの国・ブラジルの格差を改めて感じます。
ところでこのブラジルのプジン、やはりそこはわたしたちの知るオーセンティックな"カスタード・プディング"とはかなり違います。洋菓子のレシピ本によく掲載されているフランス式カスタードプディングは、卵と牛乳で作ったプリン液を蒸し焼きにしますが、ブラジルでは卵とコンデンスミルクという組合せです。また、卵の凝固力を阻害しないように静かにかき混ぜるのが定石なのに対し、ブラジルではフードプロセッサーでガーッと攪拌してしまいます。
これは、ブラジルがどうこう、というよりはブラジルへプジンが伝わる手前に存在している、ポルトガルの作り方が先にあるお話。つまり、ポルトガルではプリン液は牛乳と卵と生クリームで作りますし、泡だて器でしゃかしゃか攪拌もするようなんですね。もっとも、ポトルガルでは攪拌したプリン液を目の細かい濾し器で一度濾す傾向が強く、恐らくはこれがブラジルで省略されてしまったのではないか、と推測できますが。生クリームがコンデンスミルクに置き換わったのも、ブラジルではコンデンスミルクの方が様々な意味で入手しやすいからなのでしょう。
また、ブラジルプリンの特徴は、この手のお料理では敬遠される"す"にこそある、という点も忘れてはならないでしょう。下記のレシピのベイク時間に幅があるのもそれゆえで、"す"を少なくしたい人は40分くらい、そうではなくてもっとディープにブラジル式でゆくならば1時間くらいベイクして"す"もいっぱい入れると、一層それっぽくなります。
それからもう1つ。そんなブラジルのプジンは、当然ですけれどブラジル国内でも細部が地方によって異なるようで、サンパウロ周辺ではプレーンに仕上げるのに対し、南部ではココナッツファインをオプションに使用したりもするそうですよ。…なんでもプリン液と一緒にココナッツファインも攪拌してベイクするらしく、けれどもココナッツはプリン液に浮くので、食べるときにはちょうど底にココナッツファインがあり、それからプリン液、そしてカラメル、となるわけですね。
実際に食べるブラジルのプジン。日本人のわたしたちにはとてもミルキーに感じることでしょう。それから、プリンミックスでお手軽に作ったものとは根本的に異なる"きちんと食べるプリン"である、という印象も強いかもしれません。将来、家庭のキッチンを預かるように女の子たちが、最初に作るお料理は、されどその土地々々によって印象の異なる奥深いもの。ブラジルでは最後のオーブンの部分だけはママイが担当し、チビちゃんたちは専ら材料を測り、フードプロセッサーを廻すまでが出番です。そしてその計量もブラジルで最もポピュラーなコンデンスミルクの缶を基準に、最初にコンデンスミルクを2缶、続いて牛乳をその缶2杯分、最後に全卵3個、というシンプルにして大らかな作り方が基本中の基本、なのだといいます。
*作り方*
※ココナッツファインはあくまでもオプションです。食感が大きく変わってくるので、ご興味のある方は両方のバージョンを試して頂けたら、と思います。
※シフォン型は底が抜けない一体型のものであることが必須です。
フルーツ大国ともいわれるブラジルは、搾りたてのジュースが毎食出てくるのが一般的。軽食屋やレストランでもお客様の要望通りにブレンドしてくれることが多く、フルーツスムージーは日常食。お好みでミルクとミックスする人も。
特にポピュラーなのが世界一の生産量を誇るオレンジジュース。搾りたてのオレンジジュースはフルーツ本来の甘みがあり子供たちにも大人気。人参やアセロラなどと混ぜてビタミンアップ。その他にもパッションフルーツや日本でもおなじみのカシューナッツの原料であるカシューを使ったジュースや、パイナップル&ミントジュース。牛乳と混ぜて作る、アボカドスムージやバナナスムージなども人気。日本では炭酸飲料として知られているガラナも、ブラジルでは炭酸が入っていないガラナジュースも人気。
カウド・デ・カナ
パステルのおともといえばサトウキビジュース。日本では沖縄県などでポピュラーなサトウキビですが、ブラジルでは砂糖やアルコール、ブラジルの地酒カシャッサの原料でもあり、余すことなく使用されます。
今でこそブラジルの食べもの、と言えば、フェジョアーダくらいならば知っている日本人も増えてきていますが、ほんの10数年ほど前ではブラジル=サッカー、サンバ、そしてコーヒーというのが一般的な印象でした。もちろん、今でもブラジルのコーヒーは健在。世界最大のコーヒー輸出国ですし、その輸出量も世界需要の実に30%強を担っている(2019年実績)、といいます。
ブラジルはサンパウロ州サントス港から出発し、世界中の食卓へと届けられるブラジル・コーヒー。味わい方にも世界各地の特色があるのでしょう。でも、そこは本国ブラジルです。ブラジル・コーヒーの特徴にぴったりの味わい方を、きっと知っているはず。はたしてブラジレーロたちは、どうしているのでしょうか?
ブラジル・コーヒーの特徴は、焙煎と挽き、です。しっかりと深く焙煎した豆をとても細かく挽くため、ドリップにも時間がかかります。その結果、イタリアのエスプレッソよりもさらに濃いブラジル・コーヒーがカップへと滴り落ちます。このとてもとても濃いブラジル・コーヒーを、ブラジレーロたちは家でならばカフェ・オレを。そして街で飲むのがカフェジーニョです。
カフェジーニョとは、デミタス・カップよりも小さいカップにブラジル・コーヒーを淹れて、たっぷりの砂糖を加える、というもの。感覚的にはショート・エスプレッソに似ています。
ブラジルの人々は外出中に何度もコーヒーを飲む習慣があります。だから少量のカフェジーニョがコーヒー・ショップやカフェの中心メニューとなって定着したのか?それとも先にカフェやコーヒー・ショップがカフェジーニョを多く供していたので外出時、人々がカフェジーニョを飲むようになって定着したのか?あなたはどちらだと考えますか?
トルタ・デ・カフェ
パン・デ・カフェ
バラ・デ・カフェ(コーヒーキャンディー)
ブラジルの飲み物、というと日本人が最初に思い浮かべるのはコーヒーでしょう。あるいはガラナなのかも知れませんね。けれども、ご存知ですか?ブラジルには、ブラジルならではのカクテルも多数あることを。一番有名なのはカイピリーニャでしょう。ピンガというサトウキビの絞り汁を発酵・蒸留した強いお酒をベースに、刻んだライムと砂糖とクラッシュド・アイスを混ぜた、甘くて、でもすっきりとした口当たりのカクテルです。
続いて登場するのがバチーダです。バチーダは、やはりサトウキビから造られるカンシャッサというこちらも強いお酒を、南国特有のトロピカル・フルーツ果汁で割ったカクテル類の総称。ポピュラーなものには、ココナツミルクで割る"バチーダ・デ・ココ"や、パイナップルジュースで割った"バチーダ・デ・アバカシィ"、パッションフルーツ・ジュースで割った"バチーダ・デ・マラクジャ"などがあります。カイピリーニャにしても、バチーダにしても、ヨーロッパやアメリカのカクテルと違って配合比率に厳密さはなく、特にバチーダはウォッカをベースに差し替えることもままあるようです。
けれどもその一方ですべてに共通して言えるのが、とても甘いことと、けれどもアルコール度数は意外に高いことと。ついつい呑み過ぎてしまって、眠くなってしまったり、腰が抜けてしまった、なんていう失敗談もよく耳にします。
日本よりも暑く、しかも時間がゆったりと流れるブラジル。そんなリラックスできるブラジルだからこそ、甘くて強いカクテルが似合うのかもしれません。カクテルを舐めるのが半分、ウトウトするのが半分、といった按配です。気忙しすぎる日本にいて、たまにはお庭やベランダでのんびり日向ぼっこする片手に、ブラジルのカクテルはいかがですか?
ここでは、日本でも入手しやすいマンゴー・ジュースやウォッカを使ったバチーダをご紹介します。
材料(2~3杯分)
*作り方*
6月と言えば、ここ日本では梅雨や田植え、衣替えなどが代表的な風物詩。一方、地球の反対側の国にして、南半球に位置するブラジルでは、6月はちょうど秋祭りの時期になります。そう、つまりは1年間の収穫を祝い、来年の豊作を祈願する、というものですが、そこはやっぱりキリスト教国。それだけでは決してないわけで、6月中に集中するキリスト教の聖人の日にも因んでいます。すなわち、マリアがキリストを身篭った時、叔母のエリザベトはパプテマスのヨハネを身篭って6ヶ月になっていた、という新約聖書「ルカによる福音書」の記述から、クリスマスの半年前にあたる6月23日が聖ヨハネの日とされていて、その聖ヨハネの日を中心に、 前後の聖人の日を集約して祝う習慣でもある、と。
歴史的には、ブラジルに伝わった時にはすでにキリスト教的な思想も付随していた、というフェスタ・ジュニーナ。けれども、最近のブラジルでは宗教的な色合いはかなり希薄で、純粋にお祭りとして愉しむ傾向が強いようです。また、北半球の習慣からするとどうしても季節が逆転する南半球の場合、クリスマスが真夏にあたってしまうこともあって、季節的な位置づけは北半球のクリスマスにも相通ずる部分があるようにも思えます。
そんなフェスタ・ジュニーナの定番の食べ物は、やはり収穫物がメインとなるらしく、トウモロコシ、キャッサバ芋、ナッツ類などなど。当然ですけれど、お肉やお魚類はありません。クリスマスのように食事をする、という前提よりはポップコーンやトウモロコシから作った甘いお菓子、ピーナツ、などを摘みながら飲んでにぎやかに楽しく過ごす、ということですね。…ということで、欠かせなくなってくるのが、はい。お酒です。
ブラジルにはカシャッサというサトウキビから作るお酒があります(地方部ではピンガとも呼びます)。このカシャッサ、アルコール度が高く、とても強いお酒なんですが、これにスパイスや柑橘類の皮、砂糖を加えて煮立てたのが、フェスタ・ジュニーナの必須ドリンク、ケントンです。ケントン。名前の意味を直訳するなら「超熱いっ!」という感じでしょうか。英語のhottest(hotの最上級)に該当します。それもそのはず。元々がとても強いお酒なのに、それを飲みやすく味付けしてしかも熱々に温めるわけですから、身体の芯から温まること請け合い、です。…個人的な印象では、ヨーロッパのグリューワインの南半球版、と捉えていますがいかがでしょう。そうそう、カシャッサ(あるいはピンガ)ですが、日本国内でももちろん、買えます。ネット通販でも複数検索できますので、ぜひお試しあれ。
材料(8~10杯分)
*作り方*
※レモンはオレンジにコンバート可。甘さはお好みで調節してください。
※飲むときのお供はポップコーン、というのがブラジルのフェスタジュニーナの定番です。