近年、日本国内でよく聞く料理にカニの甲羅グラタンがあります。その名の通り、カニの甲羅をお皿代わりにしたグラタンですが、どうやら通信販売などでかなり人気になっているようです。
そんなカニの甲羅グラタンよく似た料理がブラジルにも存在します。カスキーニャ・デ・シリ。カスキーニャは殻、シリはブラジルのカニの名前ですから、その名もまさしくカニの、という意味の料理です。
ブラジルでポピュラーなカニと言えば、カランゲージョとシリがあります。カランゲージョは土の中で暮らす泥カニ、シリは海水と淡水が交じり合う場所で、マングローブの林の中を動き回るカニ。ブルー・クラブの一種のようです。このシリの肉をトマトとココナツ・ミルクで調理して、とっておいた殻に詰めます。そしてオーブンでベイクすれば、とてもトロピカルなカニの甲羅グラタンの完成です。
ブラジルでは、カランゲージョとシリの味わいの違いから、どっちをどう使うのか、ということは食通の間でしばしば話題になるようです。大振りなカランゲージョは味も淡白で、塩ゆでにしてそのまま食べるのが一般的なのでしょう。一方のシリは小振りなので食べられる部分も少なく、けれども元々の味が濃いという特徴があります。そのためシリは茹でただけで食べるというよりも、カスキーニャ・デ・シリのようなきっちり調理するお料理向きとなります。
日本の蟹に喩えるならば、塩茹でしてそのまま頬ばる毛ガニやたらば、ずわいといったカニと、鍋やお味噌汁に使われることが多い渡りガニの違いに近いでしょうか。
残念ながら、日本ではカランゲージョもシリも入手できないので比較的、安価で試せるずわいカニの缶詰を利用して挑戦してみましょう。またカニの甲羅も、帆立貝の殻などその時々で用意できるものでOK。
器となるカニの甲羅の形も、カニも、地球の反対側・ブラジルとでは微妙に違ってしまいますが、本場の味を想像しつつ熱帯気分にひたるのもまた、きっと愉しいはず。
カスキーニャ・デ・シリは、リオやサンパウロだとオーブン・ベイクが主流ですが、もっと北のバイア州などでは衣をつけて殻ごとフライにするタイプもあるそうです。
*作り方*
例えば、日本のお料理で説明するならば、、まさしく寄せ鍋のようなもの。それがブラジルのカルディラーダです。つまり、具材や味付けの仕方に特別なお約束はなく、地方により、家庭により、作った日により、中身が替わる煮込み料理と言えるでしょう。
けれども、寄せ鍋にも何となく定番と言われる具があるように、カルディラーダは白身魚やエビといったシーフードが中心。また味付けのベースは玉ねぎとにんにく、塩、こしょう、そしてオリーブ油を使うのが基本で、けれども中にはココナツ・ミルクとデンデ油を加えるものまであります。果たしてムケッカとの違いは何?となってしまいそうですね。日本でも鶏肉中心の寄せ鍋と水炊きはどう違うのか、というあたりはなかなか微妙ですから。
そして日本のお鍋が、最後にご飯を入れて雑炊にしたり、うどんを入れたりすることがあるように、カルディラーダも最後にキャッサバ芋の粉末(ファリーニャ・デ・マンジョッカ)を入れることがあります。これがピロン。
写真では小皿にサーブしていますが、本来は大きな平皿でどん、とサーブ。そしてテーブルを囲む銘々がスプーンで取りながら食べます。雰囲気的には、もんじゃ焼きを食べている時に近いかもしれません。
日本の雑炊もそうですが、今ではピロンも独立したお料理として、カルディラーダだけではなく、他の煮込み料理の付け合せとしても、テーブルに登場します。また、煮込み料理の〆としてではなく、最初からお皿に添えられているケースも増えています。
気候も、風土も、歴史も、場所も、ブラジルと日本は大きく違います。でも、時に手元にあるものを大胆に投入した煮込み料理があったり、そんな煮込み料理の最後に残った美味しいスープを余すことなく頂くために工夫したり。何処にいても美味しいものを食べたい人間の考えることは、大枠できっとそう変わらないのでしょうね。
基本的にレシピはあってないようなものですが、ここでは特にポルトガル食文化の影響が強いものをご紹介します。
材料(6~8人前)
*作り方*
好みで彩りにパセリやパクチーを添えてもよい。フュメ・ド・ポワソンがなければ水で代用可。
魚を少し早めに加えて出汁が出るようにする。
※イカ・エビなどはシーフードミックスで代用可
材料(6~8人前)
*作り方*
材料(5~6人前)
*作り方*
材料(4人前)
*作り方*
※デンデ油は同量のオリーブオイルで代用可。
今でこそラテン、というと中南米っぽい印象が強くなってきていますが、元々のラテンと言えばラテン語などの例から判るように南欧のことでした。そして大航海時代に、スペインやポルトガルが新大陸に到達。そのまま入植した結果、中南米もラテン文化圏になっていったわけです。
ただ、ここが文化というものの面白いところであり、やるせないところでもあるのですが、そうやってラテン文化圏となった中南米は、けれども南欧以外の文化側面も持ち合わせていましたから、それらが融合した全く別の中南米ラテン文化と成長。今ではラテンと言えば本家の南欧よりも、中南米の方が鮮やかな印象を放っている向きすらあるようになっています。
こういう文化経緯はもちろん、お料理にも如実に反映されます。現在のブラジル料理は、まさしく究極のフュージョン料理。南北アメリカ、ユーラシア、アフリカなどの大陸由来の料理が渾然一体となってテーブルを彩ります。それは、とても楽しくてダイナミズムいっぱいの光景。けれどもそんな中で、ラテン文化の源流とも言えるスペインやポルトガル由来のお料理が、大元のものから大きく変質することないままテーブルに現れると、やはり何処となくクラシカルな印象を受けるのは先入観のなせる業、でしょうか。
塩漬けした鱈・バカリャウとガルバンゾ(ひよこ豆)のカップリングは殊、ポルトガル料理の定番とも言えるもの。サラダにすることも多く。味付けも酸味いっぱいのマリネ風だったり、かすかに唐辛子が感じられるスパイシーなものだったり、そしてマヨネーズで和えたものだったり、と様々なバリエーションが存在しています。
そんなバカリャウとガルバンゾのサラダの中から、特に手軽に作れるマヨネーズ使用のものをご紹介しましょう。バカリャウとオリーブの実の塩気がアクセントになっているサラダです。
*作り方*
*作り方*
わたしたち日本人が、ポルトガル料理として思い浮かべるもの。恐らく、その筆頭格は鱈料理でしょう。そして、その鱈を塩漬けにして乾燥させると、バカリャウとなります。一方、日本でも鱈はとてもよく食べられていますし、塩鱈の切り身から乾燥させた棒鱈まで、と鱈の加工法は南欧と極東で相通ずるものがあるようです。
ただ、米飯が主食で、鱈もたくさん食べるこの日本で、意外にもあまり見かけないのが米と鱈のお料理。鮭ならば炊込みから雑炊まで様々にあるのに、です。
では、鱈とご飯の相性が悪いのか、と言えばそんなことはありませんし、この組み合わせが殊のほか好まれているのが、そう。ポルトガルです。様々な風味を効かせた鱈のリゾットや、スペインのパエリアのような炊込みご飯や。
そんなポルトガルからブラジルに伝わったのが、アホース・コン・バカリャウ。日本語に直訳するならばバカリャウ入りご飯、となるでしょうか。
アホース・コン・バカリャウ。このお料理がブラジル国内でブラジル料理と分類されるのか、あるいはポルトガル料理として分類されるのか、はとても微妙なのだと思います。そもそものバカリャウ消費量が、ブラジルとポルトガルではかなり違います。バカリャウそのものが高級食材として位置づけられているブラジルに於いて、アホース・コン・バカリャウを"ブラジルのとてもポピュラーなお料理"とするのにはどうしても躊躇が伴ってしまいますし、けれども大前提として外来のものとの融合によって成り立っているブラジル料理です。難しいことはさておき、ブラジルで食べられているものなのだから、それはブラジル料理。そう思ってしまってもいいのかも知れません。
鱈の風味が口の中に広がるこのご飯料理は、にんにくとこしょう、パセリ、オリーブ油によって、ポルトガルなり、ブラジルなりの味わいになりますが、和風のだしで炊き上げたならば、しっかりとした和食にもなりそうな、ひと品です。
材料(5~6人前)
*作り方*
それからもう1つ。こちらはポルトガルの伝統料理にして、そのままブラジルにも伝わったボリンニョ、と呼ばれるお料理。やはり、白身魚のすり身を丸めて素揚げしたお料理でもあります。
・・・ごめんなさい。ここは敢えて明記させて頂きますが
「~素揚げしたお料理です」ではなく「~素揚げしたお料理でもあります」
と口幅ったく書いたのには訳があります。といいますのも、ボリンニョと名付けられたお料理は、その名の通り、ボール型すなわち丸型であることが必須となっていて、逆を言えば白身魚のすり身以外を丸めたものでも、あるいは素揚げではなくきちんと衣が付けられたものでも、丸ければボリンニョと呼ばれるからなんですね。特に多いのがまん丸なコロッケで、こちらは素揚げではなくパン粉の衣もきっちり纏ったフライ。
サルガジーニョスのページで、コッシーニャはしずく型、ヒゾーレスは半月型、クロケッチは俵型、と書きましたがどうやらあちらの文化圏だと、この手のお料理は形状で分類するらしく、ボリンニョも小さなボール状だからボリンニョ、といった処でしょうか。こちらの場合は衣だけではなく、生地にマッシュしたジャガイモやキャッサバ芋が加えられるのが一般的ですし、魚も生の白身魚のすり身よりはバカリャウのほぐし身が多くなります。
お話を戻しまして、南欧+中南米ラテン版の薩摩揚げです。よく見かけるのは生の白身魚を使うもので、ボバロ(すずき)が主流となるでしょうか。そして生地に加わるのが炒めた刻み玉ねぎと香辛料、調味料、さらには刻んだグリーン・オリーブの実あたりが挙げられそうです。・・・本当にそのまま南欧の雰囲気満載ですね。一方、見かける機会こそ少数派になりますけれど、それでもオススメしたいのが生の白身魚ではなくバカリャウを使用した薩摩揚げ。要するに塩抜きしたパカリャウの身をほぐし、フードプロセッサーにかけてから、玉ねぎやオリーブと一緒に炒め、そして成型・素揚げする、というもの。生の鱈を使うよりもずっと、バカリャウの風味が効いていて、ワインにも好相性だと思います。ただ、少しもさもさした食感になってまとまり難くなりますから、つなぎにコーンスターチを加えます。
バカリャウはブラジルの都市部で多く食べられています。そして都市部には、イタリアやドイツ系移民も多いことから、薩摩揚げ式バカリャウのボリンニョも定着したのかな、と愚考しますけれどいかがでしょう。ジャガイモ入りのコロッケ式とも、生の白身魚のすり身を使った食感滑らかな薩摩揚げ式とも、また違ったバカリャウのボリンニョ。ちょっと大人のフィンガー・フードです。
材料(7~10個分)
*作り方*
ココナツとエビのシチューに粉を加えて、クリーム状にするお料理ですが、元々のアフリカではコーン・ミールやガリと呼ばれるキャッサバの粉末を加えのが一般的。一方のブラジルでは、やはりコーン・ミールやファリーニャ・デ・マンジョッカと呼ばれる粉末キャッサバはもちろん小麦粉も使いますし、パン粉(細挽)を使うこともあるといいます。
バイーア州では塩漬けにして干したエビを、よくお料理に使います。さしずめバカリャウのエビ版、といった感じでしょうか。残念ながら日本では入手がとても難しいので、生のエビで代用します。エビの風味をより強くしたい場合は、桜エビの乾物や中華食材の干しエビを少し加えましょう。
材料(4人前)
*作り方*
アカラジェに挟むのはもちろんですが、ヴァターパだけでも充分にメインのお料理になります。グリーンチリが手に入らない場合はレッド・チリ・ペッパーを一振りしてもいいでしょう。
材料(5~6人前)
*作り方*
※デンデ油はココ椰子から採取した植物油。入手が日本ではやや難しいので、同量のオリーブ油で代用してもいいでしょう。
材料(6~7人前)
*作り方*
※油は本来、デンデ油(パーム椰子油)を使いますが、日本では入手が難しいのでコーン油かピーナッツ油で代用してください。
※豆は生のままで生地を作るのが現地式。じっくり揚げないと生地が生のままになるので注意。
上手に揚げるのが難しい場合は、皮剥きした豆を熱湯にしばらく浸けてから生地を作るといいですよ。
材料(21cmの丸型1台分)
*作り方*
下準備 焼き型にバターを薄く塗って薄力粉をまぶし、余分な粉を叩き落としておく。
材料(6~8人前)
*作り方*
ポルトガルから渡来したカルディラーダ、作り方や材料がイタリア料理のカッチュッコに通ずるものがある一方で、マリスカーダはフランスのブイヤベースが前身であることは疑うまでもなし。この判断は、やはり貝類の有無となりますし、けれどもブラジルにはフランス系の移民がとても少ないことや、前述しているブイヤベース憲章からしても、マリスカーダの直接の前身はマルセイユのブイヤベースではない、きっとオマール海老やムール貝満載のフランス国内の高級なブイヤベースなのでしょう。また、コリアンダーやチリパウダーなど欠かせない、という辺りから確実に窺えるのは、アフリカの影響です。
同じ地中海の魚介を使った2つのスープが、別のルートを辿り、ブラジルの地でにて再び巡り合いました。そして、恐らくはブラジルの一般家庭ではすでにカルディラーダもマリスカーダも、魚介の寄せ鍋、というような認識しかされていないのではないでしょうか。貝類を入れるか、入れないか、あるいは多いか少ないかくらいの違いだ、としてしか思われていないと言いますか。もしかしたらそう遠くない未来、Caldeirada de Marisco(貝のカルディラーダ)とか、Mariscada com Lula(イカ入りマリスカーダ)なんてお料理が、ブラジルでは当たり前になっているかもしれません。
材料(2~3人前)
*作り方*