ブラジル人はとってもパーティ好き。ほぼ毎週のように親戚や友人を集めてホーム・パーティを開きます。そして、そんなパーティに欠かせないのがサルガジーニョス。コロッケや素揚げのミートボールといった揚物類です。
例えば日本では、小判型でも俵型でもコロッケはコロッケです。けれどもブラジルはそうではありません。大きなしずくの形をしたコッシーニャ、半月形のヒゾーレス、日本人にもなじみ深い俵型ならばクロケッチ、真丸いボーリンニョ、と形によって名前が変わります。コロッケの中身も違い、日本ならば生地と具が混ざっているのに対し、ブラジルのコッシーニャやヒゾーレスは、まるでお饅頭のように具材を生地で包んでいます。ですからひと口かじると中から具が出てくる、という按配。
本場ブラジルでは、具材を包む生地もポピュラーなジャガイモのものもあれば、こねた小麦粉のもの、そしてキャッサバのものまであります。
一方、ポルトガル料理の影響色濃いボリーニョ・デ・バカリャウは、生地と具のバカリャウ(塩鱈のほぐし身)がしっかり混ざった生地。こちらはお魚が苦手なお子さんがいるご家庭に、喜んでいただいています。
静かな人気を博しているのがキビ。殻つきの挽き割り小麦と牛挽肉を練って成形したもので、素揚げにして食べます。実はこのキビ、元々は中央アジアでコフタ、アラブではキョフテ、と呼ばれる羊肉のお料理。それが難民と一緒に大西洋を渡り、ブラジルのキビに。挽肉も羊から牛に変わりました。小麦のフスマの部分も豊富に含むキビは食物繊維がいっぱい。隠し味に入ったミントが、揚げ物のしつこさを緩和してくれます。
どの揚げ物もすでに味がついていて、日本のコロッケのようにソースをつける必要はありません。もし濃い味つけがお好みならば、ケチャップを添えるといいでしょう。
ポルトガルやアラブといった、世界各地の食文化の片鱗が見えるサルガジーニョスは、移民の国であるブラジルの食文化を象徴する側面をもったお料理です。
フットボール型をしたキビ
半月型のヒゾーレス
三角形のエスフィーハ
近年では、イタリアン・レストランのメニューや、すこし大きなデリカテッセンへ行けば、日本でもモルタデーラを見かけるようになりました。モルタデーラ、それはイタリアのソフト・ソーセージです。径の大きなモルタデーラをごく薄くスライスしたものが、サラダやサンドウィッチなどによく添えられるのは、イタリアもブラジルも同じです。
ブラジルでは、ハムが高級食材として扱われています。そのため、日本のハムと同じような頻度と気軽さで食べられるのがモルタデーラ、となります。一般的なブラジルの朝食は圧倒的にパン食で、つまりブラジルの朝はコーヒーとモルタデーラで始まる、とも言えてしまうわけです。
ブラジル独特のムサレラ・チーズ(モッツァレラ・チーズよりも塩味が強く、弾力があります)と薄く薄くスライスしたモルタデーラを何枚も重ねて、フランスパンに挟んだり、ちょっと厚めのスライスを軽く炙ってから挟んだり。
もちろん、朝食だけではありません。パスタやピザの具としてもモルタデーラは定番ですし、ごく薄いスライスで様々なものを包むお料理も、よく見かける人気レシピです。
日本では、お肉屋さんの店頭でスライスしてもらう、という習慣があまり定着していないため、ちょっぴり想像しづらいかも知れませんが、ちょうど日本の薄焼き玉子のような使い方もする、ということです。
イタリアはもちろん、ブラジルでも日々に欠かせない食材・モルタデーラ。使い勝手の良さも手伝って、日本の食卓にも少しずつ登場し始めています。
材料(6個分)
*作り方*
※オーブンは早めに予熱しておきましょう。
※発酵やベイクは環境によって仕上がり時間が違うので、それぞれの目安を確かめながら作りましょう。
サンパウロやリオといったブラジルの都市には、ブラジルっ子たちが大好きな軽食を売るスタンドがたくさんあります。主にバーガーやサンドイッチなどが売られていて、パンに挟むもののバリエーションも様々。中には、軽食ではなくて立派な一食分に相当するほど豪華な具もありますが、手軽でシンプルな定番メニューも人気です。
カショホ・ケンチはホットドッグのような存在。日本だと、上から切れ目を入れたコッペパンにソーセージを挟んでケチャップやマスタードを添えるのが一般的ですが、ブラジルのカショホ・ケンチは横側に切れ目を入れたフランスパンに、あらかじめ調理したサルシッシャをソースごとサンド。他の具も添えて 「いただきま~す!」
ポルトガル語でカショホは犬、ケンチは熱いという意味。ホットドッグをそのまま直訳したような名前のカショホケンチは、きっと作り方や食べ方にこうしなければならない、という形式なんてありませんが、その中でもオーソドックスな作り方をご紹介しましょう。
材料(4人前)
*作り方*
※オーブンは早めに予熱しておきましょう。
※発酵やベイクは環境によって仕上がり時間が違うので、それぞれの目安を確かめながら作りましょう。
ブラジルのおやつ、と言えばパステル。お好みの具を包んだ、一層構造の揚げパイです。アルゼンチンやボリビアのエンパナーダ(アルゼンチン風ミートパイ)には揚げたものとオーブン・ベイクするものがありますが、ブラジルのパステルは揚げるだけ。ぷくぷく膨らむ専用の生地は、歯に当たるとぽろほろ崩れてしまうくらいデリケートです。
一方のパステルの具。パルメザンチーズと卵黄・チリパウダーを混ぜ合わせたものを詰めるとボリビア風エンパナーダに。牛挽き肉とレーズン・アーモンド・ゆで卵を炒めたものを詰めればアルゼンチン風エンパナーダになります。
さて。それではプラジル式のパステルにはどんな具が詰まっているのでしょうか。また具にバリエーションはあるのでしょうか?
材料(15個分)
*作り方*
他にも、よく溶けるチーズを挟んだり、トマト味のシーフードを詰めたり、そしてグァバのペーストとスライスチーズを詰めたり(ロミオとジュリエットと呼ばれるパステルです)。
ブラジルにはランショネッチという軽食を出してくれるお店がたくさんあります。サルガジーニョスと呼ばれるコロッケ類と並んで、パステルはランショネッチの看板メニュー。びっくりするぐらいのビッグサイズなのもブラジル流です。
ポービィリョ(ポルトガル語)とはキャッサバ芋から採取されるデンプンのこと。近年、日本でもタピオカでん粉としてあちこちで見かけるようになりましたが、ブラジルではどこの家庭に必ずある一般的な食品です。
ポービィリョには二つのタイプがあります。ドッセ(スウィート)とアゼド(サワー)でドッセが採取・精製しただけのデンプンなのに対し、アゼドは発酵させてあります。ですからお料理に使うと、かすかな酸味が感じられるんですね。
ブラジル人による、ポービィリョの最もポピュラーな使い方はポン・デ・ケージョというモチモチ食感のチーズパンの材料。このチーズパンは小麦粉を一切使わずにポービィリョと粉チーズ・卵・牛乳・塩で作られます。ドッセとアゼドに関しても、それぞれの家庭に独自の比率があるらしく、アゼドとドッセ半々の家庭もあれば7:3とか6:4というお宅もあるようです。
ポン・デ・ケージョは数年前に日本にも上陸。すでに定着している感もありますが、それに付随してタピオカでん粉も需要が高まってきています。タピオカでん粉の特色は、他のデンプンと比べて水を抱え込む能力が高く、他のでん粉に比べて粘り気が強いということ。そしてアレルギー反応を極めて起こしにくい、ということです。
だからなのでしょう。最近ではソーセージなど練り製品につなぎとして卵の代用で使われたり、ソーセージ類の増量剤として既存の大豆タンパクや乳清タンパ クの代用に使われたり、こんにゃく類の保水率や口当たり向上のために使われたり、と天然食品添加物として脚光を浴びています。
現在、日本国内に出回っているポービィリョは在日ブラジル人市場くらいしかなく、用途もあくまでも食品としてです。つまりポービィリョは安心して毎日食べる添加物、とも言えるわけです。
これから確実に注目・脚光を浴びてゆくであろう新食品・ポービィリョを今からチェックしていてはいかかですか?
*作り方*
ブラジル本国では、数年前からポン・デ・ケージョの中にチョコレートやクリームなどを詰めたタイプが大流行。せっかくの手作りポン・デ・ケージョです。本場の流行にならってみてはいかかですか?
まるでおにぎりのような三角形が印象的な、ブラジルのパン。それがエスフィーハです。ブラジルの代表的な軽食で、街中でもよく売られています。ひと口、頬ぱるとずっしりと詰まった牛ミンチの具が現れるエスフィーハは、正式名 エスフィーハ・フェッシャード。そしてもう1種類、小振りなピザのように、生地に具を載せただけの、エスフィーハ・アベルトがあります。
また、具も牛ミンチだけではありません。チキンのほぐし身とカチュピリ(ブラジルのクリームチーズ)が入っているものも、とてもポピュラーです。
エスフィーハのルーツを手繰ると、中東のシリアに辿り着く、と言われています。そう、彼の地にもあるんですね、エスフィッハ(sefiha/一部、 sfihaという綴りも見受けられます)と呼ばれるピザのようなパンが。具材もやはり牛やラムのミンチを玉ねぎ、トマトで炒めたもの、となります。
そしてこのエスフィッハ、シリアのみならずレバノン、イラク、パレスチナ、ヨルダンといったシャーム文化圏(*)では、満遍なく食べられています。因みに、シリアでは加えないパセリを、牛ミンチに加えるとレバノン風なのだとか。
中東から、南米はブラジルへ。この食文化の伝達は、内戦を逃れてブラジルに渡った難民たちがもたらしたもので、ブラジルには大人気の中東系のファストフード・チェーンもあるほど。
ですが、エスフィーハに限らず、他にも中東由来のキビや、もしかしたら中東の影響を受けているのではないか、と推測されるパステル(よく似たボレッキィという食べ物が中東にあります)などを考えると、単純にここ数十年間に起こった伝達ではなく、もっと歴史的な背景も考えられるのかもしれません。
大航海時代に、新大陸を目指したのはスペインやポルトガルの船だけではなく、イスラム商船も多数ありましたから。ポルトガル→イスラム→ブラジル、あるいはイスラム→ポルトガル→ブラジル、という伝達ルートは、ブラジル建国以前から存在していた可能性は、否定できないのではないでしょうか。
中東だとsefihaと綴られるエスフィーハ(エスフィッハ)は、ブラジルだとesfihaと綴られています。大西洋を渡り、南米の大地で逆転したeとs、そして具材を包む三角形の外見。これらは、南米の気候風土がもたらした化学変化なのかも知れません。
そして今、そのブラジルから太平洋を渡って日本へと伝わり始めているエスフィーハは、この先どんな化学変化をするのでしょうか。
*シャーム:シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン各国は、生活習慣や食文化がとても似通っていることから、一帯はシャームと総称されています。
*作り方*
※具材は鶏のほぐし身とクリームチーズにしてもよい
ケーキやパイ、そしてタルト。こう言うとわたしたち日本人は、つい甘いお菓子を思い浮かべてしまいがち。
けれども洋菓子の故郷である西洋諸国では全く甘くない、お菓子というよりも"おかず"と言いたくなるようなケーキやタルトも定番です。
フランスの伝統料理・キッシュはわたしたち日本人にも、そこそこ馴染みがありますし、ミート・パイなどはファストフードや、コンビニエンス・ストアのホットデリカ用メニューにもなるほど定着しています。ですが、本物のケーキのように丸型で、スポンジのようなキメのもの、となるとちょっと思い浮かばないのではないでしょうか。
ブラジルの定番料理に、トルタ・サウガータというものがあります。サウガータとは塩味の、という意味ですから直訳すれば塩味のタルト、とするのが妥当でしょうか。塩味のタルト、となると即座にキッシュを思い浮かべる方も多いでしょうが、そこはやっぱりブラジル式。西洋文化の影響はとても強くはあれど、そっくりそのまま受け継いではいないんですね。
いつの間にかキッシュからタルト台が省略されて、フィリングだけを焼くようになったのか。それとも、スペインの巨大オムレツ・トルティーリャの影響を受けたのか。どういう過程を経たのかは想像するしかないですが、とにかくブラジルのトルタは、小麦粉と油脂と卵とベーキング・パウダーに、塩味をつけた生地に、チキンやサーディンをサンドして焼く、ということ。
お菓子を作る際、砂糖の果たす役割というものがあります。砂糖は卵をしっかり泡立てる手助けをしてくれて、だからこそあのフワフワなスポンジができるんですね。つまり、ケーキをケーキたらしめる最大のものが砂糖である、とも言えるわけで、にも関わらず砂糖抜き、塩味付きのベイクドケーキ・トルタ。そのポイントはやはりスポンジケーキのように、どれだけフワフワに焼き上げられるか、ということなのですが、はてさて上手に膨らんでくれるかは、通常のケーキよりも多く加えるベーキング・パウダーと、作り手の愛情次第となりそうです。
材料(21cmの丸型1台分)
*作り方*
(下準備)焼き型にバターを薄く塗って薄力粉をまぶし、余分な粉を叩き落としておく
※オープンの焼き時間はあくまでも目安です。途中、生地に竹串を刺してみて、何もついてこなければ焼き上がり。
温度が高くて表面の焼き色が濃くなりすぎた時は、アルミホイルを被せて焼き続けましょう。
今、ブラジル本国の都市部で、ちょっとしたブームになっている軽食があります。それは、タピオカ。…といっても、日本人がタピオカと聞くと、どうしてもあのタピオカパールを思い浮かべてしまいがちですが、そちらのブラジル名はサグー。ブラジルでタピオカと言ったらクレープやメキシコのトルテーヤのような外見をしている、薄い生地で具を挟んだお料理です。
そもそもタピオカ、とはキャッサバ芋の別名。そしてそのキャッサバ芋のでんぷんがタピオカでんぷん、となります。タピオカパールはこれを丸めたもので、ブラジルのタピオカはこのでんぷんで作った生地、となります。
タピオカでんぷん。これが自然界のものでありながら、とても不思議な存在です。水分を抱え込む力が、他のでんぷんに比べてとにかく強く、だからこそ、ポン・デ・ケイジョのあのもちもち食感も、タピオカパールのぷにぷに食感も叶います。
ブラジルのタピオカは、そんなタピオカでんぷんの特性を存分に活用したお料理。水分を含ませても半ばサラサラしている手触りの粉をそのまま加熱します。すると、粉の粒子と粒子がくっついて一枚の生地に。粉という"点"が、生地という"面"になる過程は、初めて知る人にとってはびっくりしてしまうものでしょう。ですが、これこそがタピオカでんぷんの秘めた力。ブラジル料理のタピオカは、まさしくわずか数ミリのミラクルです。
具としてポピュラーなのが、干した牛肉のほぐし身とチーズの組み合わせや、バナナのソテー、ココナツ・ファインとチーズの組み合わせなどなど。ブラジルでは、生地を焼く寸前の粉と、具材をそれぞれ事前に作り、仕上げだけを路上で行い、販売している屋台が、よく見られます。
実際に作ると、思っている以上に生地が裂けやすく、ちょっと上級者向けのお料理です。でも、ぜひタピオカでんぷんのミラクルを体験していただけたら、と思います。
材料(4~6枚分)
◆生地◆
◆具A◆
◆具B◆
*作り方*
※薄く作ろうとすればするほど、作業がとてもデリケートになり、難易度が上がってしまいます。
※スライスしたバナナを生地に載せて、コンデンスミルクをかけたり、具は様々に工夫できます。
サルガジーニョスのページで、コッシーニャはしずく型、ヒゾーレスは半月型、クロケッチは俵型、と書きましたが、どうやらあちらの文化圏だと、この手のお料理は形状で分類するらしく、ボリンニョも小さなボール状だからボリンニョ、といった処でしょうか。こちらの場合は衣だけではなく、生地にマッシュしたジャガイモやキャッサバ芋が加えられるのが一般的ですし、魚も生の白身魚のすり身よりはバカリャウのほぐし身が多くなります。
お話を戻しまして、南欧+中南米ラテン版の薩摩揚げです。よく見かけるのは生の白身魚を使うもので、ボバロ(すずき)が主流となるでしょうか。そして生地に加わるのが炒めた刻み玉ねぎと香辛料、調味料、さらには刻んだグリーン・オリーブの実あたりが挙げられそうです。…本当にそのまま南欧の雰囲気満載ですね。一方、見かける機会こそ少数派になりますけれど、それでもオススメしたいのが生の白身魚ではなくバカリャウを使用した薩摩揚げ。要するに塩抜きしたパカリャウの身をほぐし、フードプロセッサーにかけてから、玉ねぎやオリーブと一緒に炒め、そして成型・素揚げする、というもの。生の鱈を使うよりもずっと、パカリャウの風味が効いていて、ワインにも好相性だと思います。ただ、少しもさもさした食感になってまとまり難くなりますから、つなぎにコーンスターチを加えます。
バカリャウはブラジルの都市部で多く食べられています。そして都市部には、イタリアやドイツ系移民も多いことから、薩摩揚げ式バカリャウのボリンニョも定着したのかな、と愚考しますけれどいかがでしょう。ジャガイモ入りのコロッケ式とも、生の白身魚のすり身を使った食感滑らかな薩摩揚げ式とも、また違ったバカリャウのボリンニョ。ちょっと大人のフィンガー・フードです。
材料(7~10個分)
*作り方*
※オリーブの実は塩分が強いので、塩抜きしたあと、必ず味見すること。オリーブの実の風味はそのまま、でもボリンニョ自体は塩辛くなく仕上げるのがコツです。