例えば日本で言うならば大阪や小樽などが、該当するでしょうか?一般的に「食べものが美味しい街」というイメージが定着しているのは。一方、ブラジルではミナス州がその代名詞。なので、ミネイラ(ミナス州式)と言えばすなわち、とっても美味しいものという意味をもつことなります。
ミナス州の「食べ物が美味しい街」というイメージは、例えば新鮮な食材が豊富な土地だから、という印象よりも、お料理上手な人がたくさんいるから、という印象が強く、ミナスのおかあさんたちが、気取らずに日々作る家庭料理がとても美味しい、という定説があるということ。そんなミナスの家庭料理の代表的なもののひとつにフランゴ・コン・キアーボはあります。
お料理そのものは、カルルーなどと同様でアフリカ由来ですが、アフリカ食文化を色濃く残すバイーア州の名物料理という印象は、フランゴ・コン・キアーボには希薄です。これはフランゴ・コン・キアーボが、地域を問わずブラジル全土に受け入れられている、ブラジリアン・スタンダードにまでなっているからでしょう。日本に来ているサンパウロ州やパラナ州出身の日系ブラジル人たちも、アカラジェやカルルーは食べたことがなくてもブランゴ・コン・キアーボならば「おかあさんがよく作ってくれた」と言うことが多くあります。
フランゴ・コン・キアーボにはセットとしてアングーを添えるのが一般的。アングーは味付けをしないポレンタで、この組み合わせもルーツはアフリカにあります。
骨付きチキン 材料(3~4人前)
*作り方*
お酒を呑みに行って一番最後の〆に注文するもの、と言ったならば日本の場合、お茶漬けや焼きおにぎりなどがポピュラー。では、ブラジルでは?ということで欠かせないお料理がカンジャです。
一口に表現するならばブラジル風鶏雑炊。トマトベースのチキン・スープの中にご飯も具として入っています。サンパウロなどの都市部では真夜中や明け方近くに、カンジャを出してくれる屋台が多く出没。のんべえたちも次々と注文してゆきます。
お酒を呑まない人にとっても、カンジャはお腹にやさしく、身も心も温めてくれる癒しメニュー。日本の食卓にも違和感なく登場させられそうですね。
材料(4人前)
*作り方*
日本人にもお馴染みのロシア料理と言えば、ピロシキやストロガノフが挙げられると思います。亜寒帯から寒帯に属す、寒い国・ロシア。そんなロシアのお料理が、南半球は熱帯から亜熱帯に属すブラジルに伝われば、やっぱり進化もするのです。
本国・ロシアのストロガノフは、ドミグラスソースと生クリームでビーフを煮込んだものが1番ポピュラー。色合いもチョコレート色のようなお料理ですが、ロシアには“白いストロガノフ”と呼ばれるタイプもあります。ストックと生クリームでビーフを煮込むわけですね。
けれども、ブラジルのストロガノフはそのどちらとも違います。色合いで言うならばピンク。しかも牛肉もさることながら、チキンでつくるのも一般的、とのこと。つまり、ロシアの白いストロガノフにケチャップが加わってピンク色になり、さらには具もチキンにコンバート。ですが、これがチキンによく合う味わいです。
けれども、ブラジル式ストロガノフの進化は止まりません。チキンやビーフの代わりにツナや白身魚を具にしたり、果てはおかずではなく、デザートとしてのストロガノフにまでたどり着いてしまいました。
デザートとしてのストロガノフ、それは生クリームにチョコレートと卵とコンデンスミルクを加えた甘いクリーム。そこへクルミを添えたり、苺とススピーロを加えたり。
寒いロシアから暑いブラジルへ、赤道を越えたストロガノフ。果たしてこの先も進化し続けるのでしょうか?
材料(4~6人前)
*作り方*
甲殻類とチキンの取り合わせは、北部ブラジルの定番中の定番。シンシンはチキンとエビをトマト、ピーナッツで煮込んだシチューです。こちらもムケッカやヴァターパ、カルルーなどと同様にアフリカ伝来のお料理ですが、大元はアフリカ(ナイジェリア)の神様に捧げていた供物だといいます。さすがにブラジルでは、お料理本来の意味合いは伝わっていないようで、ごくごく普通の家庭料理として定着。それでも、バイア州など、アフリカ文化の影響色濃い地域では、子どもたちにも大人気のひと皿です。
アフリカから大西洋を渡ってブラジルに伝わったシンシンを、今度は太平洋を渡った日本で、味わってみませんか?伝統的なレシピでは、ブラジル特有の塩漬けのエビを使いますが、日本では桜エビで代用してください。
サーブのポイントはご飯かファロッファに添えることです。
材料(5~7人前)
*作り方*
同じ名前のお料理なのに、国によって全然違う。そういう現象は結構、世界各地で見られます。但し“全然違う”というのにも様々あるわけで、額面どおりにこれっぽちも似ていない。何でこれとこれが同じ名前なんだ!?と訝しく思えてしまう代表例は殊、ブラジル料理に限って言うならサルピカオではないでしょうか。
サルピカオ。この名前を調べると3つのお料理に辿り着けるはずです。1つはスペインのソーセージ。味付けしたお肉に刻んだ野菜などを練りこむのが特徴です。2つ目はフィリピンの牛肉料理。にんにくや玉ねぎと一緒に炒めて、オイスターソースなどで味付けします。そして3つ目。これがブラジルのサルピカオなのですが、こちらは分類するならばサラダに近いです。チキンのほぐし身と彩りのいい野菜たちをマヨネーズと生クリームで和えるだけですが、ひとつ驚かされるのはバタタ・パーリャまで一緒に和えて、そのうえ最後にまたトッピングする点です。
バタタ・パーリャとはシューストリングス(マッチ棒くらいの細さ)のポテトを揚げたスナック菓子。ブラジルではとてもポピュラーですが、面白いのはサルピカオやストロガノフといったお料理に登用されることがまま、ある点。…スナック菓子をおかずの材料にする、という発想は、わたしたち日本人にはほぼありませんから、流石にこれは興味深いですね。ですが、そうやって出来上がったブラジルのサルピカオは、思っていた以上に違和感もなく、十二分に「これってアリだわ!」となること請け合いです。
ソーセージとビーフの炒め物とサラダ。この共通点がまるでない3者が何故か、名前を同じくしていること。そしてその名前は明らかにスペイン語系列のものであることなどから鑑みて、根ざすものは1つであろうに、それぞれが伝わり、広まってゆく間に個別に様変わりしていったのでしょうね。そんな3者3様の進化の果てで、ブラジルのサルピカオはクリスマスの定番料理という顔まで持ちました。大皿いっぱいに盛られたサルピカオ。その表面はバタタ・パーリャで覆われ、子ども達はそれごと、自分のお皿に取り分けていく…。想像すると、とても愉しげなクリスマスの光景が目に浮かんできそうです。
とにかく簡単ですし、バタタ・パーリャさえ入手できるならぜひ、トライして頂きたいです。スナック菓子を使ったおかず、案外アリですから。
材料(6~7人前)
*作り方*
フランゴ・エン・ソパード。直訳するならば、鶏のスープ仕立て、とでもすればいいでしょうか。とにかく、とてもシンプルで、でもわたしたち日本人には十二分にエキゾチックな煮込み料理です。和食にも鶏を煮込んだものはたくさんあります。すぐに挙げられる代表的なお料理ならば、水炊きや治部煮などでしょうか。あるいはしゃも鍋か、と。個人的な感覚であえて書くならば、このフランゴ・エン・ソパード、どうもラテン式しゃも鍋という印象が強く、それも厳密には事前に鶏を焼く、関西のしゃも鍋に近いように思えます。…といって、もちろん味は和風ではありません。特徴的なのは、アニス・シードとマジョラムの甘い香りや、オリーブの実の塩気+酸味です。
個人的な話になりますが、最初のこのお料理と遭遇した時、思ったことです。
「南欧ラテンっぽい?でも地中海東岸とかアラブのような…。でもハム??」
他のブラジル料理のレシピで、何度も書いてきていますが、移民国家ブラジルのお料理は、大体大元の食文化の影響下にありますから、材料や調理法を見ると、結構どこの地域由来のものなのかが手繰れたりします。ですが、フランゴ・エン・ソパーダに関しては、それが中々に難しく、…いや、明確に書くのならばごちゃ混ぜの印象が先立ってしまって、推測できなかったんですね。例えばオリーブやマジョラムは南欧ラテンの影響でしょうし、これはブラジルがポルトガルやスペイン文化と縁が深く、しかもイタリア系移民とその子孫が多いことからも納得できます。同時に、ギリシャなどの地中海東岸部からアラブにかけての影響であろうアニスシードも、それほどわからないお話ではなし。ブラジルには、アラブ文化もかなり流入・定着しています。ですが、どうにも困惑するのが、そこにハムが入ってしまうという点で、これって一体どうなんだろう、と。
ハム。実はブラジルではやや高級な部類に入る食材です。日常的にパンに挟んだりするならば、モルタデーラやサラミの方が一般的ですし、リーズナブル。それらに比べてハムは、ということですね。一方、チキンの煮込みにわざわざハムをプラスする理由や必要性を、日本人のわたしにはちょっと思いつくことができませんで。…
ですが、こういうよい意味のカオス。もっと言ってしまえば渾然一体となったごった煮文化こそがブラジル料理の最もブラジル料理たる真髄にして骨頂。なるほど、ブラジルに於けるややアッパーな食材・ハムなればこそ、アクセントとして煮込みに加えたくなるのもまた納得がゆきますし、それが南欧文化とも、アラブ文化とも溶け合え、しかも不思議とバランスがとれてしまっているあたり、これぞブラジル、これぞフュージョン、と感じます。
チキンの煮込み料理。本当に、ブラジルはもちろん古今東西、世界各地にそれこそ星の数ほど存在しています。何せ鶏は世界でも最も禁忌の少ない食肉ですから、至極当然のお話。ですが、それでも新鮮な味わいは必ず存在しますし、それとの出会いを叶えてくれるものの1つに、ブラジルの大地がある。そういうことなのだと思います。
材料(4~5人前)
*作り方*
例えばお馴染みのすき焼き。名前の由来は諸説ありますが、そのうちの1つに農具の鋤で食べ物を焼いたことが起源だから、というものがあります。つまり、すき焼きとは鋤焼き、ということですね。同様なのがくわ焼きで、こちらもやはり農具の鍬で焼いた。という説に由来し日本の鉄板焼きの元祖とも謂われています。但し、鋤焼きにしても鍬焼きにしても、21世紀の現代、実際に農具で調理をしているのか、と言えばもちろん答えは“否”。もはや鋤も鍬も関係なく、けれどもその名だけは連綿と受け継がれているお料理です。
日本の反対側の国・ブラジル。サンパウロより少し南に位置するパラナ州のウムアラマという街の名物にフランゴ・ナ・テーリャという鶏料理があります。何でもこのお料理、ウムアラマ随一の郷土料理を決めよう、という地元の方々による会議で、第1位に選出され続けてきたものらしく、それくらい地元では本当に身近で馴染み深いものなのでしょう。
フランゴ・ナ・テーリャ。直訳するならば鶏の瓦焼き、とでもするのが適当なのでしょうか。つまりこのお料理、チキンを実際に瓦に乗せてオーブンで焼くものなのですが、日本の鋤や鍬のようなすでに名前だけ、というのではなくて現在もなお、その名の通りの調理法がなされているのだ、と。この瓦焼き。瓦自体がスペイン文化の伝播によるものらしく、ブラジルの中でも特にスペイン文化の影響が強い地域で多く見られるようですが、焼くものは何も鶏だけではなく、ナマズであったり野菜であったり、とかなり自由自在。単独のお料理としての様式ではなく、あくまでも調理法としての様式となりますし、すでにブラジル全土に浸透もしています。
ブラジルの瓦は素朴な素焼き製で、どちらかと言えば日本の植木鉢に近い印象でしょうか。ともあれ、ここ日本ではブラジルの瓦はまず入手できませんし、かといって植木鉢で調理するわけにもいきませんから、できるだけ雰囲気の近い土鍋やクレイポットを活用してみては如何でしょうか。あるいは、日本の陶板焼きのような風情にしてもいいかもしれません。
材料(5~6人前)
*作り方*